「せっかくの休日、車中泊旅行を計画していたのに台風が近づいている」「台風が直撃しそうだけど、避難所に行くより慣れた車の中で過ごしたい」そう考えて、このページにたどり着いた方も多いのではないでしょうか。車はプライベートな空間が確保できるため、外の嵐をやり過ごすのに安全な場所のように思えるかもしれません。
しかし、結論から申し上げますと、台風接近時の車中泊は極めて危険であり、基本的には絶対に避けるべき行動です。車は強風や水害に対して想像以上にもろく、過去には車内で避難中に命を落とす痛ましい事故も数多く発生しています。
この記事では、なぜ台風の車中泊が危険なのか、その具体的な理由とメカニズムを詳しく解説します。また、旅行ではなく災害避難として「やむを得ず車中避難を選択する場合」に知っておかなければならない、生死を分ける注意点についても網羅しました。あなたとあなたの大切な人の命を守るために、ぜひ最後まで目を通してください。
台風の車中泊はなぜ危険なのか?知っておくべき4つのリスク

車は鉄の塊でできているため、雨風をしのぐには十分な強度があるように見えます。しかし、自然の猛威である台風の前では、車は非常に不安定な存在です。まずは、具体的にどのような危険が潜んでいるのか、4つの主要なリスクについて解説します。
強風による車両の横転リスクと恐怖
台風の猛烈な風は、数トンある車でさえも簡単に吹き飛ばす力を持っています。気象庁のデータや過去の実験映像などからもわかるように、平均風速が20m/sを超えると通常の運転操作が困難になり、風速30m/sを超えると走行中のトラックが横転するリスクが生じます。
特に注意が必要なのは、近年人気の「軽ハイトワゴン」や「キャンピングカー」、そして「ミニバン」などの車高が高い車種です。これらの車は居住性が高く車中泊には適していますが、風を受ける面積が広く重心が高いため、横風の影響を非常に受けやすい構造になっています。
停車中であっても安心はできません。サスペンションが風の揺れを増幅させ、車酔いのような状態になるだけでなく、突風を受けた瞬間に車ごとひっくり返る可能性があります。一度横転すれば、車内はめちゃくちゃになり、脱出も困難になります。夜間の暴風雨の中で横転事故に遭うことは、そのまま命の危険に直結すると考えてください。
大雨による浸水と水没のメカニズム
台風に伴う大雨は、短時間で道路状況を一変させます。特に恐ろしいのが「アンダーパス」や「低い土地」への浸水です。車中泊をしている最中に周囲の水位が上昇しても、激しい雨音や風音にかき消され、車内にいると外の異変に気づくのが遅れる傾向があります。
車は水深が30cm程度になるとエンジンルームに水が入り込み、エンジンが停止する可能性があります。さらに水位が上がり、ドアの下半分程度まで水が来ると、水圧によって内側からドアを開けることがほぼ不可能になります。
こうなると、車は密室の檻と化します。パワーウィンドウなどの電気系統も浸水によりショートして動かなくなることが多く、窓を開けて脱出することもできなくなります。水没した車内では、じわじわと水位が上がり、最終的には呼吸ができなくなるという、想像を絶する恐怖が待っています。このリスクは、川の近くや海岸沿いだけでなく、都市部の舗装された駐車場でも排水機能の麻痺によって十分に起こり得ます。
飛来物による窓ガラス破損と怪我の危険
台風の風は、単に空気が速く動いているだけではありません。看板、屋根瓦、折れた木の枝、さらにはどこかの家のベランダから飛んできた物干し竿など、あらゆるものが凶器となって飛んできます。
車のボディは鉄板ですが、窓ガラスは飛来物の衝撃に耐えきれないことがよくあります。就寝中に突然、轟音とともに窓ガラスが粉砕され、暴風雨とともにガラスの破片が車内に降り注ぐ状況を想像してみてください。車内で寝ている無防備な状態で、鋭利なガラス片を浴びれば、大怪我を負うことは避けられません。
また、窓が割れると、そこから猛烈な風雨が車内に吹き込みます。車内はずぶ濡れになり、強風で体温が奪われるだけでなく、割れた窓からさらなる飛来物が飛び込んでくる危険性も続きます。こうなると、車の中はもはや安全な避難場所としての機能を完全に失ってしまいます。
土砂災害や道路寸断による孤立の可能性
山間部や自然豊かな場所で車中泊をする場合、土砂崩れのリスクも考慮しなければなりません。大雨によって地盤が緩み、裏山が崩れて車ごと巻き込まれるケースや、道路に土砂や倒木が流れ込んで帰り道が塞がれてしまうケースがあります。
「自分は平らな場所に停めているから大丈夫」と思っていても、そこに至るまでの道路が寸断されれば、完全に孤立してしまいます。電気も水道もない場所で、車という限られた空間に閉じ込められ、助けも呼べない状況に陥るのです。
携帯電話の電波基地局が停電や破損でダウンすれば、外部との連絡手段も絶たれます。孤立した状態で食料や燃料が尽きれば、生存そのものが危ぶまれる事態になります。台風通過後も、道路の復旧には数日以上かかることが珍しくありません。その間、車内で耐え忍ぶことができる準備があるかどうかも問われますが、そもそもそのようなリスクがある場所に留まること自体が大きな間違いです。
車が「安全な場所」とは限らない!意外な落とし穴

「家の駐車場なら」「道の駅なら」「頑丈なコンクリートの建物の近くなら」と、場所を選べば安全だと考える方もいるかもしれません。しかし、台風のような極限状態においては、普段安全だと思われている場所が一転して危険地帯に変わることがあります。ここでは、場所選びに潜む落とし穴について解説します。
駐車場や道の駅なら安心という誤解
道の駅や高速道路のサービスエリア(SA・PA)は、トイレや自販機があり、普段の車中泊には最適な場所です。しかし、これらの施設の多くは、風を遮るものがない広大な平地に作られていることが多く、台風の暴風をまともに受けてしまう危険性があります。
また、全ての道の駅が災害時の避難場所として指定されているわけではありません。浸水想定区域内に建っている施設もあれば、背後に崖が迫っている場所もあります。「道の駅だから管理者がいて安心」というのは思い込みです。夜間は無人になる施設も多く、何かあっても誰も助けてくれません。
さらに、他の利用者も避難してきている場合、駐車場が満車になり、身動きが取れなくなることも考えられます。隣の車が風で横転したり、ドアが風で勢いよく開いてぶつかってきたりする「もらい事故」のリスクも高まります。
高速道路のパーキングエリアで立ち往生するリスク
移動中に台風に遭遇し、高速道路のパーキングエリアでやり過ごそうと考えるのは非常にリスキーです。高速道路は、台風の影響で「通行止め」になる可能性が非常に高いからです。
一度通行止めになると、解除されるまで高速道路から降りることができなくなります。パーキングエリアに閉じ込められ、売店の食料はすぐに売り切れ、トイレも混雑し、過酷な環境で何時間、あるいは何十時間も過ごすことになるかもしれません。
また、高速道路は高架になっている場所が多く、地上よりも風が強く吹き抜けます。特に橋の上にあるパーキングエリアなどは、遮るものがないため、横転のリスクが格段に跳ね上がります。逃げ場のない高速道路上で暴風雨にさらされ続けるのは、精神的にも大きなストレスとなります。
河川敷や海岸沿いの急激な増水と高潮
キャンプ場や車中泊スポットとして人気の河川敷や海岸沿いは、台風時には絶対に近づいてはいけない「レッドゾーン」です。河川敷は、上流で降った雨により、雨が止んだ後でも急激に水位が上昇することがあります。「まだ雨は小降りだから」と油断していると、あっという間に中州に取り残され、車ごと流されてしまいます。
海岸沿いでは、強風による「高波」に加え、気圧低下と風の吹き寄せ効果による「高潮」が発生します。海水が防波堤を越え、駐車場を一気に飲み込む津波のような現象が起こることもあります。
海水による浸水は、淡水による浸水よりも車へのダメージが深刻です。塩分を含んだ水は電気系統を一瞬で腐食させ、漏電火災の原因にもなります。たとえ命が助かったとしても、愛車は廃車確定となるでしょう。水辺の景色が良い場所は、台風時には死に一番近い場所だと認識してください。
木の下や建物の近くに潜む倒壊の危険性
風を避けようとして、大きな木の下や建物の壁際に車を停める人がいますが、これもまた危険な行為です。台風の風圧で大木が根こそぎ倒れたり、太い枝が折れて車を直撃したりする事故は後を絶ちません。車の屋根は、数百キロある木の幹を受け止めるようには作られていません。車体が押し潰され、中の人が圧死するケースもあります。
また、古い建物やブロック塀の近くも危険です。強風でブロック塀が倒壊し、車が下敷きになることがあります。ビルの看板や外壁タイルが剥がれ落ちてくることもあります。建物の風下は、一見風が弱まるように思えますが、ビル風(剥離流)によって逆に複雑な乱気流が発生し、予期せぬ方向から突風が吹くこともあります。
結局のところ、屋外に車を置いている限り、台風の脅威から完全に逃れる安全な場所など存在しないのです。
台風接近中に車中泊を計画している場合の判断基準

もし今、あなたが台風の接近を知りながら車中泊旅行を計画していたり、すでに旅の途中にいるのであれば、冷静な判断が求められます。ここでは、どのように行動すべきかの基準をお伝えします。
キャンセルする勇気を持つことの重要性
最も確実な安全対策は、「行かない」「中止する」「帰る」ことです。楽しみにしていた旅行をキャンセルするのは辛い決断ですが、命には代えられません。「せっかく予約したから」「休みが取れたから」という理由で強行することは、ギャンブル以下の無謀な行為です。
台風の進路予想はあくまで予想であり、急に進路が変わったり、スピードが上がったりすることもよくあります。「まだ大丈夫だろう」と出発した結果、現地の天候が急変し、帰るに帰れなくなるケースは非常に多いです。宿泊施設やキャンプ場のキャンセル料がかかるとしても、車の修理費や命のリスクに比べれば安いものです。
天気予報とハザードマップの正しい見方
どうしても移動が必要な場合は、気象庁の台風情報だけでなく、現地の「ハザードマップ」を必ず確認してください。自分が滞在しようとしている場所が、浸水想定区域に入っていないか、土砂災害警戒区域ではないか、これらを事前に知っておくことは必須です。
Googleマップなどの地図アプリで地形を確認し、周囲より低い場所や、崖の近くを避けることも重要です。また、「キキクル(危険度分布)」などのリアルタイム情報を活用し、少しでも危険度が高まっている地域には近づかないようにしましょう。
避難指示が出た時の即時行動の鉄則
滞在している地域に「避難指示(警戒レベル4)」が出た場合は、たとえ車中泊の準備が整っていても、直ちに頑丈な建物へ避難してください。避難指示は「全員避難」を意味します。車の中は安全な避難場所ではありません。
近くの避難所(学校や公民館など)が開設されているかを確認し、速やかに移動してください。もし避難所への移動がかえって危険な状況(すでに道路が冠水しているなど)であれば、近くの頑丈な建物(鉄筋コンクリート造の2階以上など)に垂直避難することも検討してください。
「これくらいなら大丈夫」という正常性バイアスの罠
災害時に最も怖いのが、人間の心理的な働きである「正常性バイアス」です。「これくらいの雨なら今までも大丈夫だった」「自分だけは事故に遭わない」「周りの人もまだ逃げていないから」といった根拠のない安心感を持ってしまい、逃げ遅れる原因となります。
台風の威力は毎回異なりますし、土地の条件によって被害の出方は変わります。過去の経験が今回も通用する保証はどこにもありません。「もしかしたら最悪の事態になるかもしれない」と、常に悲観的に状況を捉え、早め早めに行動することが、あなた自身と家族を守ることにつながります。
災害時の「車中避難」として利用する場合の注意点

ここまで「レジャーとしての車中泊」の危険性を説いてきましたが、一方で、災害時に自宅が被災したり、避難所に入れない事情(ペット連れや感染症対策など)があったりして、やむを得ず「車中避難」を選択せざるを得ないケースもあります。ここからは、緊急避難としての車中泊を行う際に、命を守るために絶対に守るべき注意点を解説します。
エコノミークラス症候群の予防と対策
車中避難で最も警戒すべき健康被害が「エコノミークラス症候群(静脈血栓塞栓症)」です。狭い座席で長時間同じ姿勢を続けることで、足の静脈に血の塊(血栓)ができ、それが肺の血管に詰まって呼吸困難や死に至る病気です。
予防のためには、以下の「3つのルール」を徹底してください。
1. 水分をしっかり摂る:トイレを気にして水分を控えるのは自殺行為です。こまめに水を飲み、血液がドロドロになるのを防ぎましょう。
2. 足を動かす:座ったままでも、つま先の上げ下げ、足首回し、ふくらはぎのマッサージを1時間に1回程度行ってください。
3. 寝る時はフラットに:シートを倒して、できるだけ足を伸ばして寝てください。座ったまま寝る姿勢は血流を著しく阻害します。
一酸化炭素中毒を防ぐための換気とエンジン停止
大雨や台風の時は、窓を閉め切ってエアコンを使うためにエンジンをかけっぱなしにしがちです。しかし、これが一酸化炭素中毒のリスクを高めます。
もし車両が浸水してマフラー(排気口)が水で塞がれたり、飛んできた障害物で塞がれたりすると、行き場を失った排気ガスが車内に逆流してきます。一酸化炭素は無色無臭で、気づかないうちに意識を失い、死に至ります。
原則として、停車中はエンジンを切るのが鉄則です。どうしてもエアコンが必要な場合は、マフラー周りに水や障害物がないかを頻繁に確認し、少しだけ窓を開けて外気を取り入れるなどの換気対策を必ず行ってください。
車内の温度管理と熱中症対策
台風通過後のフェーン現象などで気温が急上昇する場合や、湿度が極端に高い閉め切った車内では、熱中症のリスクが高まります。特にエンジンを切って窓を閉め切った状態の車内温度は、短時間で危険なレベルに達します。
乳幼児や高齢者は体温調節機能が弱いため、特に注意が必要です。冷却グッズ(保冷剤や冷却シート)を活用したり、乾電池式の扇風機を用意したりして対策しましょう。もし車内の暑さが限界を超えた場合は、無理をせず避難所などの建物内へ移動するか、日陰の風通しの良い場所へ車を移動させてください。
水・食料・防災グッズの備蓄リスト
車中避難は数日に及ぶ可能性があります。以下のアイテムを最低限備蓄しておきましょう。
【必須アイテム】
・飲料水(1人1日3リットル目安)
・非常食(加熱不要で食べられるもの)
・携帯トイレ(これがないと地獄を見ます)
・常備薬、お薬手帳
・モバイルバッテリー、乾電池
・LEDランタン、懐中電灯
・着替え、タオル、毛布
特に携帯トイレは重要です。暴風雨の中で外のトイレに行くのは危険ですし、被災時はトイレが故障していることもあります。車内で用を足せる準備をしておくことが、精神的な安定にもつながります。
避難所への登録と情報共有
車中避難をする場合でも、必ず近くの指定避難所の受付に行き、「車中泊避難をしている」ことを登録(申告)してください。
これを行わないと、行政からの支援物資(食料や水)が受け取れなかったり、安否不明者として扱われたりする可能性があります。また、エコノミークラス症候群の検診や、最新の気象情報、給水情報などを得るためにも、避難所とのつながりを持っておくことは生命線となります。自分たちだけで孤立してしまわないよう、地域や行政と連携を取る姿勢が大切です。
どうしても車内で過ごさざるを得ない時の緊急対処法

逃げ遅れてしまったり、やむを得ない事情で暴風雨の中を車内で過ごさなければならなくなったりした時のために、最後の砦となる緊急対処法をお伝えします。
安全な駐車場所の選び方
少しでもリスクを減らすために、駐車場所を厳選してください。
建物の風下は飛来物のリスクを減らせますが、風の巻き込みには注意が必要です。可能な限り、屋内駐車場(立体駐車場の2階以上など)へ避難するのがベストです。
窓ガラスの補強と飛散防止対策
飛来物でガラスが割れた時の被害を最小限にするため、窓ガラスの内側から養生テープを「米」の字に貼ることは一定の効果がありますが、これはガラスが飛び散るのを防ぐだけで、割れること自体は防げません。
より効果的なのは、窓の内側から毛布や銀マットをガムテープで隙間なく貼り付けることです。これにより、万が一ガラスが割れても、ガラス片や雨風が直接車内に吹き込むのをある程度防ぐことができます。また、カーテンを閉めておくだけでも、ガラス片の飛散を抑える効果があります。就寝時は、窓から頭をできるだけ離して寝るようにしましょう。
外部との連絡手段確保とバッテリー管理
スマホは命綱です。常に満充電に近い状態を保ってください。車のシガーソケットから充電できるようにUSBチャージャーを用意しておきましょう。ただし、エンジン停止中はカーバッテリーの上がりに注意が必要です。
ラジオアプリ(radikoなど)や防災アプリ、SNSを駆使して、リアルタイムの情報を入手します。特にTwitter(X)などのSNSでは、近隣の被害状況が画像付きで投稿されることがあり、避難の判断材料になりますが、デマ情報には注意が必要です。公式アカウント(自治体、NHK、気象庁など)の情報を優先してください。
緊急脱出用ハンマーの準備
万が一、車が水没したときに備えて、「緊急脱出用ハンマー」を運転席の手の届く場所に必ず常備してください。グローブボックスの奥底やトランクに入れていては意味がありません。
水没した車内では、電気系統がショートして窓が開かず、水圧でドアも開きません。脱出用ハンマーでサイドガラス(フロントガラスは合わせガラスで割れにくいため、横の窓を狙う)を割り、そこから脱出する必要があります。ハンマーにはシートベルトカッターがついているタイプを選びましょう。浸水時にシートベルトが外れなくなるトラブルにも対応できます。
台風の車中泊は危険が伴う!安全第一で適切な判断を
ここまで解説してきた通り、台風接近時の車中泊には、横転、水没、ガラス破損、孤立、そしてエコノミークラス症候群など、数え切れないほどのリスクが潜んでいます。車は便利な乗り物ですが、自然災害に対しては決して万能なシェルターではありません。
「自分なら大丈夫」「きっと大したことはない」という油断が、取り返しのつかない事態を招きます。レジャーでの車中泊なら迷わず中止を、やむを得ない避難の場合でも、可能な限り頑丈な建物への避難を優先してください。
どうしても車中避難を選択せざるを得ない場合は、今回紹介したリスクと対策を十分に理解し、万全の準備と警戒心を持って行動してください。あなたの適切な判断と行動が、あなた自身と大切な家族の命を守ります。



